クマさんの文様がたり

亀甲 毘沙門亀甲

亀甲文様は亀の甲羅からヒントを得て作られたと思いがちです。
しかし、紀元前の西アジアの彩文(さいもん)土器や、その後の宮殿壁画などに起源を持ち、
幾何学文様として発達した後、東アジアに伝わり、
亀の甲羅に似ていることから、「亀甲」の名前が付けられたといわれています。
六角形は自然界では蜂の巣などに見られるものです。
幾何学文様としては連続性があり、しかも天地、左右どの方向にも連続発展できます。
さらに、亀甲の内側には、さまざまな柄を組み込むことができるので、
応用範囲が非常に広く、とても使い勝手の良い文様です。

中国の四神思想に表れる想像上の動物のひとつで、亀と蛇が合体したような「玄武」の影響もあり、
吉祥文様として日本に伝わりました。
単なる幾何学文様を不老長寿の象徴文様と結びつけ、吉祥的な意味合いを込めた文様へと変化してゆきました。
使いやすさと、めでたさが重なって、使われる頻度がとても多い文様です。

平安時代、公家の服装や調度品に使われた有職文様のうちでも、亀甲文様は特に品格の高い文様として使われていました。
江戸時代になると豪華な能装束や、小袖などの地紋として、他の文様と組み合わせて使われることが多くなりました。
また、九谷焼のような色絵の皿など、他の工芸品にも使われています。
なかでも藍染めは江戸時代に普及し、その文様として鶴亀の文様は大変な人気でした。
着物だけではなく、布団皮にも使われ、木綿の生産と比例して藍染めが大流行しました。

星亀甲 重ね亀甲 重ね亀甲に七つ星
星亀甲 重ね亀甲 重ね亀甲に七つ星
菊入り重ね亀甲 花亀甲 重ね亀甲
菊入り重ね亀甲 花亀甲 重ね亀甲
花入り破れ亀甲に笹蔓文 七星入り破れ重ね亀甲
花入り破れ亀甲に笹蔓文 七星入り破れ重ね亀甲

巻水に亀甲

巻水に亀甲

この柄では、亀甲をそのまま亀と考えていいでしょう。流水の中を泳ぐ亀の姿。

亀甲に鶴亀

亀甲に鶴亀

藍染めの文様として最も人気の鶴亀文様です。布団皮に多く使われていました。

亀甲三つの外側の輪郭線をつなげ、先が三方に分かれた形を「毘沙門亀甲」といいます。
毘沙門天はインド生まれの軍神。仏を守護する四天王のひとりで、北方を守護するとされます。
勝負事に利益があるとされました。
日本では「七福神」に加えられ、財宝富貴を守ってくれます。
毘沙門天の鎧の文様がこの不思議な変わり亀甲文様になっているので「毘沙門亀甲」という名前が付けられました。
剣を束ねた印象もあるので「剣先文」ともいいます。亀甲文よりははるかに強く、威厳を感じさせます。

毘沙門亀甲・組亀甲 毘沙門亀甲
毘沙門亀甲・組亀甲 毘沙門亀甲


形としては単なる六角形ですが、「亀甲」という名前が付けられたことで、
このパターンが無意識のうちにめでたい文様と認めてしまいます。
呼び方ひとつで人々の受け取り方が異なってくるということは、
わたしたち一人ひとりの名前で考えると大変興味があります。怖い感じもします。

25 June 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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