色紙 短冊
七夕の笹には願い事を書いた短冊や色紙を結びます。
願い事が叶わずとも、こうした年中行事を大事にすることで、日常から離れ、
生活にメリハリがついて気分も新たになります。
ところで、七夕の笹に願い事を書くようになったのは、いつ頃からなのでしょうか。
短冊の原型は奈良時代からあり、細長い料紙で作られていたようです。
「短籍」「短策」「短尺」とも書かれたようです。読み方は「たんざく」「たんじゃく」。
歴史的には色紙の方が古く、奈良時代から使われ、
平安時代には、歌集や、詩書のなかに染め紙を用いた装飾的な紙が見られます。
平安時代は日本産の「和紙」の技術が大きく発展した時代です。
「懐紙」といい、公家たちは常に懐に和紙をたたんで入れていました。
現在でも茶席で使う用途の他に、即席の和歌を書き留めるメモ用紙としても使い、貴族の必需品でした。
後に「詠草料紙」といって、雲のような模様を漉き込んだり、墨流しや、金銀箔を使ったり、
色紙をずらす「重ね継ぎ」などといった、現在まで伝承されている高度な加工技術を必要とする良質な紙ができました。
懐紙を十文字に四等分したものが色紙、縦に八等分したものが短冊で、これが色紙と短冊の原型といわれています。
後に、色紙の寸法を決めたのは鎌倉時代の歌人藤原定家とされています。
平安時代末期には歌会の時にこの細長い料紙で作られた短冊を使いました。
貴族が催した「曲水の宴」では庭園の小川に沿って座った歌人が、流れる杯に合わせて、歌を筆で短冊にしたためました。
江戸時代になり、さらに、さまざまな種類の装飾短冊ができました。
七夕飾りとして、短冊などを笹に結ぶようになったのは江戸時代から。
願い事のほかに、書道の上達を祈って寺子屋などでも子どもたちが飾りました。
七夕飾りの用紙は当初は短冊か正方形の色紙でしたが、天保(1830~1844年)の頃には、
瓢箪形、西瓜形、ほおずき形、筆形、帳面形など複雑な形の色紙を作り
「短冊売り」と「笹竹売り」が一緒に路地裏まで売り歩いていました。
江戸の商家では七夕飾りの笹竹を、屋上に高々と競い合うように立てた様子が浮世絵に残っています。
笹竹売りと短冊売り
『年中故事附録』寛政4年(1792)
笹竹売りは江戸だけのもの。短冊は長方形だけではなく、瓢箪形もありました。
(短冊売りがぶら下げているのが見えます)
七夕
旧暦7月7日の夜が星を祭る年中行事、中国伝来の乞巧奠(きこうでん)と
日本の「棚機つ女(たなばたつめ)」の信仰が集合したものといわれています。
色紙短冊
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色紙短冊
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願い事を書いた色とりどりの色紙や短冊を、笹竹に結びます。
色紙短冊
五色の短冊の色は五行説に当てはめた、緑、紅、黄、白、黒の5色。
色紙短冊
赤い短冊は好きな人に届ける恋の歌でしょうか。
古来、花見は歌舞音曲の宴会ばかりではなく、和歌、漢詩、連歌などの風雅な文芸遊びも行われていました。
燕は遠方から良い知らせをを運ぶといわれる渡り鳥、短冊に書かれた恋の願いが伝わったでしょう。
花札にも「桜に短冊」があります。こちらは風雅かどうか?
江戸時代は文芸も盛んになった時代です。
当時、識字率は世界一といわれ、俳諧や和歌の会は庶民の間にも普及していました。
レベルを問わなければ老若男女、身分の上下に関係なく、気軽に参加できたことが大きな特徴でしょう。
古典落語の『崇徳院』は「瀬をはやみ 岩にせかるる滝川の、、、」の歌が鍵になる噺です。
江戸時代の歌人で現在最も知られている人は良寛和尚でしょう。
わたくしも良寛の書が好きで、一時期まねをしようとしたのですが、
こちらは文字の基本のきの字も知らないので、文字の崩し方もわからず、すぐに挫折しました。
いずれ再挑戦しようと思っています。
09 July 2014
*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します
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