クマさんの文様がたり

桔梗

萩に続いて、今回も秋の七草のひとつ「桔梗」です。
『万葉集』には「朝貌」という花が出ています。
現在見られる朝顔の原種は平安時代に中国から渡来しています。
したがって、それ以前に詠まれた「朝貌」とは?桔梗、槿(ムクゲ)、昼顔、いや、朝咲く花の総称ではと諸説あります。
しかし、901年ごろ発行の最古の漢和辞典「新撰字鏡」には
桔梗の説明に「阿佐加保(アサカホ)」とあるところから「朝貌」は桔梗という説が有力のようです。

澄み切った秋の空気の中で見る山の色彩の変化は微細に、より鮮やかに見えます。
秋の冷気に当たって、色彩が一変するのも人々の深い想いに重なります。
自然界の敏感な動きを、瞬時に感じ取ることができた日本人の自然観は、
古くから秋草を和歌や詩に詠み、工芸の文様に写し取ってきました。
『古今集』「あきちかう野はなになりけり白露のおける草葉も色かはりゆく」(紀友則)
「きちこう」は桔梗のこと、「あきちこう(秋近う)」の中に桔梗が隠されています。

戦国時代になると桔梗の字が「更に吉」の組み合わせでできているところから、
縁起が良いとされ、紋所や旗印として人気がありました。
明智光秀の「水色桔梗」、太田道灌の「太田桔梗」、坂本龍馬は「組み合い角に桔梗」が家紋。
江戸時代には園芸品種として栽培され、青紫、白、青、桃色、二重、三重、八重咲きも作り出されました。
乾燥させた桔梗の根は咳止めの薬として中国や韓国からもたらされました。

桔梗に薄

萩

「きりきりしゃんとしてさく桔梗かな」 小林一茶
「桔梗の花咲く時ぽんと言いそうな」 加賀千代女
「紫のふっとふくらむききょうかな」 正岡子規
島崎藤村は『千曲川のスケッチ』の中で
「長いこと煙霧に隠れて見えなかった遠い山々まで、桔梗色に顕れた」と気品のある表現しています。
宮沢賢治は『銀河鉄道の夜』の中で「美しい美しい桔梗色のがらんとした空の下を」と書いています。

文様としては他の秋の七草と組み合わせて使われることが多く、
桔梗だけ単独で使用されることが少ない文様です。
桔梗の小紋柄は可憐な小花文様として、落ち着いた雰囲気を表しています。

桔梗 押合桔梗
桔梗 押合桔梗
八重桔梗 桔梗 菱桔梗
八重桔梗 桔梗 菱桔梗

芝草に桔梗

芝草に桔梗

文化元年(1804)に広さ3000坪の向島百花園が開園し、
春は梅の名所、秋は秋の七草、萩や桔梗など四季の花々が植えられ賑わっていました。

田舎育ちのわたくしは桔梗というと、
お盆の墓参りに、畑の隅に咲いている菊や桔梗を切って持って行ったことが印象に強く、
ずっと抹香臭い花というイメージを持っていました。
50歳を過ぎた頃から、だんだん、この花が好きになった気がします。
ちなみにわたくしの好きな花の色は白か紫、気分が良い時は黄色い花を花屋で買います。
今や、桔梗は自生株が激減し、絶滅危惧類になってしまい、ビニールハウス栽培ばかりです。

06 August 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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